閉経でなぜ骨粗しょう症や高コレステロール血症が増えるのか?
今回は、女性が迎える閉経後の変化、更年期障害の中から、骨粗しょう症と高コレステロール血症について取り上げたいと思います。
女性の体を守るエストロゲン
女性には、妊娠・出産という大きな生物学的役割があります。そのため、女性の体では生殖機能を維持するために、エストロゲンというホルモンが重要な役割を果たしています。
エストロゲンには、次のような働きがあります。
1)卵胞の発育や排卵を調節する
2)子宮内膜を増殖させ、妊娠に備える
3)血管を拡張しやすくし、血管の働きを保つ
4)LDLコレステロールを低く保つ方向に働く
5)骨吸収を抑え、骨量を維持する
このように見ると、エストロゲンは単に「妊娠するためのホルモン」ではありません。
妊娠・出産に必要な生殖機能を維持すると同時に、血管や骨など、全身の状態を保つ働きも持っています。
特に血管については、妊娠すると母体の血液量や心拍出量が増えるなど、循環器系に大きな負担がかかります。エストロゲンには血管の機能を保ち、LDLコレステロールを低く保つ方向に働く作用があるため、妊娠・出産を行う時期の女性の体を支える一つの要素になっていると考えることができます。
なぜ閉経するのか
では、エストロゲンが一生涯分泌され続けたらどうなるのでしょうか。
女性は年齢を重ねても生殖機能が維持されれば、妊娠・出産を続ける可能性があります。しかし、年齢が高くなるほど、妊娠・出産に伴う母体への負担やリスクは大きくなります。
一方、卵巣の機能は年齢とともに低下し、卵胞の数が減少していきます。
つまり、女性の体には、生殖機能をいつまでも維持するのではなく、ある年齢で生殖機能を終える仕組みがあります。
これが閉経です。
閉経を迎えると排卵や月経がなくなり、卵巣から分泌されるエストロゲンも大きく減少します。
これは、妊娠・出産という生殖機能を一定の年齢で終え、高齢になってからの妊娠・出産を避けるという生物学的な意味合いもあるのかもしれません。
しかし、ここに一つ問題があります。
エストロゲンが減少すると何が起こる?
閉経前には、エストロゲンによって保たれていたさまざまな身体の機能があります。
ところが閉経によってエストロゲンが大きく減少すると、それまで受けていた作用も弱くなります。
その代表が、骨と脂質代謝です。
エストロゲンには骨吸収を抑える働きがあるため、エストロゲンが減少すると骨吸収が進み、骨量が減少しやすくなります。
また、エストロゲンにはLDLコレステロールを低く保つ方向に働く作用があります。そのため、閉経後にはLDLコレステロールが上昇しやすくなります。
つまり、
閉経
↓
エストロゲンの大幅な減少
↙ ↘
骨吸収が進む LDLコレステロールが上昇しやすくなる
↓ ↓
骨粗しょう症の 脂質異常症の
リスク上昇 リスク上昇
という変化が起こります。

更年期障害とは?
エストロゲンは閉経を境に突然ゼロになるわけではなく、閉経前後には分泌量が大きく変動しながら低下していきます。
この時期には、ほてり、発汗、動悸、めまい、頭痛、気分の変化など、さまざまな症状が現れることがあります。
こうした症状が強く、日常生活に支障をきたす状態が更年期障害です。
したがって、更年期障害は単純に「エストロゲンがなくなったから起こる」というだけではなく、エストロゲンの変動・低下を背景として、身体や自律神経などにさまざまな変化が生じることによって起こると考えられています。
長寿になった現代だからこそ
ここで、もう一度閉経という現象を生物学的な視点から考えてみましょう。
女性の体は、妊娠・出産を行う時期にはエストロゲンによって生殖機能だけでなく、骨や血管なども維持されています。
そして、年齢を重ねて生殖機能を終えると、エストロゲンの分泌も大きく減少します。
これは生殖という観点から見れば、自然な仕組みです。
ところが、現代人は閉経後も非常に長く生きるようになりました。
そのため、閉経によってエストロゲンが低下した状態を何十年にもわたって経験することになります。
その結果、かつてはそれほど長期間問題にならなかったエストロゲン低下の影響が、現代では骨粗しょう症や高コレステロール血症、さらには動脈硬化などの長期的な健康問題として重要になってきます。
言い換えれば、
これまで長い間、女性の体を支えてきたエストロゲンが減少する一方で、その後の人生は非常に長くなった。
これが、閉経後の健康を考えるうえで重要なポイントなのです。
では、閉経後の長い期間を健やかに過ごすためには、どうすればよいのでしょうか。
ここからは、具体的な対策について見ていきます。
1.骨粗しょう症を防ぐための生活習慣
骨を守ってくれていたエストロゲンが減少するため、閉経後は骨を維持するための生活習慣がより重要になります。
ただし、骨の健康を考えるうえでは、閉経後だけを考えていてはいけません。
もう一つ考えなければならないことは、若いうちにどれだけ骨量を増やしておけるかということです。
骨量は、いわば「貯金」のようなものです。若いうちに十分な骨量を獲得しておけば、加齢や閉経によって骨量が減少しても、将来的な骨粗しょう症のリスクを抑えることにつながります。
そのため、若い頃からバランスのよい食事や適度な運動を心がけ、しっかりと骨を鍛えておくことが大切です。
- 食事: カルシウム(乳製品、小魚など)だけでなく、カルシウムの吸収に関わるビタミンD(魚類、きのこ類など)や、骨代謝に関わるビタミンK(納豆、青菜など)も意識して、バランスのよい食事を心がけましょう。
- 運動: 骨は適度な負荷がかかることで維持されます。ウォーキングなどの荷重運動や、筋力トレーニングを日常生活に取り入れることが大切です。
- その他: 喫煙や過度の飲酒は骨の健康に悪影響を及ぼすため、できるだけ避けましょう。
2.高コレステロール血症への対策
閉経後は、エストロゲンによる脂質代謝への作用が弱くなり、LDLコレステロールが上昇しやすくなります。
そのため、食生活や運動習慣を見直すことが重要です。
- 食事: 肉の脂身、バターなど飽和脂肪酸の多い食品を摂りすぎないようにしましょう。一方、魚、大豆製品、野菜、海藻などをバランスよく取り入れることが大切です。
- 運動: ウォーキングなどの有酸素運動や筋力トレーニングを習慣にすることは、脂質代謝の改善や生活習慣病の予防にも役立ちます。
- 定期的な検査: 閉経後はLDLコレステロールが上昇しやすくなるため、健康診断などで定期的に確認することも大切です。
なお、LDLコレステロールが高い場合には、生活習慣の改善だけで十分とは限りません。動脈硬化のリスクは年齢や血圧、糖尿病、喫煙などによっても異なるため、必要に応じて医療機関で相談しましょう。
3.医療機関でのケア
更年期の症状が強い場合や、骨粗しょう症・脂質異常症などが心配な場合には、無理に我慢せず医療機関を受診しましょう。
更年期症状に対しては、減少した女性ホルモンを補うホルモン補充療法(HRT)などの治療があります。
また、LDLコレステロールが高い場合には、必要に応じて高コレステロール血症に対する薬物療法が行われます。
まとめ
閉経は、女性の生殖機能が終わるという大きな転換点です。
それに伴ってエストロゲンが大きく減少すると、それまで維持されていた骨や脂質代謝などにも変化が起こります。
閉経
↓
エストロゲン低下
↙ ↘
骨吸収の増加 LDLコレステロール上昇
↓ ↓
骨粗しょう症 脂質異常症・動脈硬化のリスク上昇
という変化です。
女性の体を長い間支えてきたエストロゲンが減少することは、避けることのできない自然な変化です。
一方、現代では閉経後の人生が非常に長くなっています。
だからこそ、閉経後はこれまで以上に、食事、運動、定期的な検査、そして必要に応じた医療を上手に利用していくことが大切です。
そして、骨については、閉経してから慌てて対策するのではなく、若いうちから「骨の貯金」をしておくことが重要です。
「これまで守ってくれていたホルモンが減った」
ということを理解しておくと、閉経後に起こるさまざまな体の変化も、少し違った角度から見ることができるのではないでしょうか。


